2021年5月31日、全労連(全国労働組合総連合)が最低賃金を時給1500円に引き上げるべきと発表した。
私はこの意見に大いに賛成である。
真面目に働いているのに、生活保護より生活が貧しいワーキングプアが発生する社会は何かが狂っている。
労働には正当な対価を。
その時給が1500円というのは、非常に妥当な数値だと思う。
しかし、世間では「最低賃金1500円なんて無理!」「そんなことしたら返って状況が悪くなる」と考える人は多いようだ。
反対意見に注目すると、「特権階級意識」「職業差別」「前例主義の現状維持法則」「すっかり企業に飼いならされた奴隷意識」など、ドロドロとしたものが見えてきた。
今回は、全労連最低賃金時給1500円以上に断固反対する人たちの意見をまとめよう。
これでは日本が不況に陥り貧富の格差が広がるのも必然だと思わざるを得ないだろう。
目次
全労連が最低賃金「1500円以上に」と主張
まずは、全労連の「最低賃金時給1500円以上」の主張について、詳しく解説しよう。
全労連の主張を簡潔にまとめると、以下のようになる。
- 雇用が維持され8時間労働すれば「ふつう」に暮らせる給与が必要
- 生活を支えるエッセンシャルワーカーの多くが非正規かつ低賃金という状況改善
- 最低時給アップによるコロナ禍での生活苦の改善
- 最低時給アップによる地域循環型経済の確立
- コロナ禍の失業等による国民の消費購買力低下の改善
- アベノミクスによる大企業や株主の利益優先で起こる貧富の差の是正
至極真っ当な意見だと思う。
今の日本はピラミッドの頂点にいる一部の人たちで利益を享受している状態だ。
その利益は末端には全く入ってこない。
本人の努力だけでは解決できない社会構造になっているのだ。
全労連は「中小企業や労働者を企業が買い叩く社会構造を変革せよ!」と言っているのである。
ない袖を振るのではなく、トップが末端まで利益を循環させろという主張だ。
全労連最低賃金時給1500円主張に反対の人の言い分
全労連が主張する最低賃金時給1500円以上の主張、意外にもかなり多い。
反対者は利益を享受するトップやそこに属する社員だけではない。
最低時給で労働者を雇用せざるを得ない中小零細企業、そして労働者本人たちですら「そんなことしても意味なくない?むしろ自分の首を絞めない?」と言うのだ。
彼らの反対意見をわかりやすくまとめよう。
最低時給を上げたら人件費が払えず倒産が増える
現在都心の一部を除いて時給1000円未満のアルバイトやパートに支えられている企業は非常に多い。
そのため、いきなり最低時給を上げたら、人件費が払えず会社も回らず倒産が増えるという意見が多かった。
これは事実だろう。
しかし、一生懸命働いてもカツカツの生活しかできない時給設定はやはり間違っている。
そもそも、末端にそれしかお金が回らないのは、トップが利益を独占しているからだ。
全労連は、その仕組みを崩して末端まで利益を循環させよと言っている。
そんなことしたら雇用調整されて失業者が増える
次に多かったのが、韓国の例を出し「雇用調整されて失業者が増える」「新規雇用しないから結果的に若者が職にありつけない」という意見だ。
しかし、韓国で打撃を受けたのは中小企業である。
韓国の失策は、利益を握っている大企業へのテコ入れができなかったことだろう。
総本山を崩さなければ、利益は末端まで回らない。
大企業に利権を握らせた状態で最低賃金を極端に上げれば、弱者が淘汰されるのは必然である。
レジ打ちパートを例に出して「時給が上がればセルフレジが増えるから失業者が増える」という意見も出た。
この場合、レジ打ちは削減されても、セルフレジ関連の仕事は増える。
そういう計算ができない人が、単純に減る部分だけにフォーカスして「失業者が増える!」と主張する様は滑稽だ。
どちらにしても、全労連の主張は中小企業を支える支援策とセットであるこをと忘れてはならない。
メディアの伝え方が下手クソだから、無知な人たちが「そんなの無理じゃん」と匙を投げるのだ。
能力のある自分と単純労働者の時給格差が狭まるのが嫌
全労連の時給1500円以上の主張は、特権階級意識の強さも露呈した。
某掲示板に私が書きこんだ「時給1500円以上賛成」に反対する人の中に多かったのがこれである。
具体例をいくつか挙げよう。
- 安定した企業で高収入を得ているのは頑張ってきた人たち。頑張らない人(と決めつける)が時給1500円なんて納得いかない
- 自分は有資格者だが時給換算すると1500円未満だ。自分がこんな状態で、もっと簡単な仕事が1500円以上なんておかしい。
- そもそも収入が高い人は収入が低い人の分まで税金を払ってやっているんだ。「たくさんもらってズルイ」とか意味不明
恐ろしいほどの特権意識である。
「時給安いヤツ遊んでた怠け者や無能ばかり」という前提が彼らにはある。
世間知らずも甚だしい。
また、貧富の格差の話題が出ると、必ず「高給取りはその分税金をたっぷり払っている。貧乏人はそれを享受している」という主張が出る。
これもおかしな話だ。
なぜならば、高給取りの給料を支えているのが最低賃金で働く人たちだからである。
自分1人、企業単体で完結する仕事ならばいざ知らず、大抵は子会社孫会社の構造だ。
孫会社が親会社と同じ給料という話を聞いたことがない。
そして、親会社と孫会社の人材能力に差があるとも限らない。
むしろ、親会社ができない分野を孫会社が引き受ける持ちつ持たれつの関係だ。
それなのに、親会社の正社員というだけで、なんだか偉くなって自分は優秀で特別な存在だと勘違いする人が、このような意見を言っているのである。
時給1500円に相当しない簡単な仕事にそんな高給は不要
職業差別の意見も多く見られた。
前述したレジ打ちも含め、品出し、工場勤務、データ入力など単純労働者は、時給1500円の価値がないのだという。
非情におかしな話だ。
価値がないなら失くせばよい。
必要だから彼らはそのポジションで働いている。
それを「私たちのように優秀な職に就けないから、仕方なく仕事も選べず底辺の仕事をしているのでしょう」と思っているのである。
なんと傲慢なのだろうか。
このような主張をする人は「時給が上がればパート等はクビをきられ、正社員がその仕事を補う」と言う。
これも非常に矛盾している。
時給1500円に相当しない仕事を、なぜそれ以上給料が高い正社員が補って採算が合うと考えるのだろうか。
自分が本当に優秀な人材だと言うなら、経営者は「時給1500円に相当しない仕事」をさせようとするはずがないのだ。
もはや支離滅裂の主張である。
全労連が望むのはぜいたくな暮らしではない。
ただ、真面目に働いて人並みの生活を得たい、そのために必要な最低時給が1500円と主張しているだけだ。
自分の価値を基準に、「私より能力が低い人たちの給与は低くて構わない」というのは、自分本位で無知な意見だとしか言いようがない。
扶養内で働き続けたいのに時給が上がったら扶養が外れて困る
現在最低時給で働く労働者の中にも、「時給1500円になると困る」という意見がある。
「今扶養ギリギリで働いてるから、時給が上がったら扶養が外れて困る」だそうだ。
無知の極みである。
扶養が外れて社会保険や厚生年金に入れるメリットを度外視している。
「今と同じ働き方で時給1500円になったら、収支はどうなるか」を計算しようともしない。
「時給上がったら働く時間を減らして生活にゆとりをつくろう」とも考えない。
前例主義かつ現状維持、「今不満がないから変わるのめんどう」というだけの人たちである。
頭を使わない無知な人たちが時給アップの足を引っ張るのだ。
企業側にとっては「もっとアホになってくれ」と、ウハウハな気分だろう。
無知は罪である。
物価も上昇するから意味がない
「時給が上がれば物価も上昇するから結局意味がない」という主張もある。
確かにインフレにはデメリットがあるがメリットも大きい。
しかも、現在賃金が上がらないのに生活必需品が値上がりしている状況だ。
インフレを心配して時給据え置きで良いとか言っている場合ではない。
呑気なのも大概に知ろと言いたい。
全労連最低賃金時給1500円以上主張の内訳
全労連は最低賃金時給1500円以上の主張と共に、さまざまな問題提起をしている。
その内容について、詳しく解説しよう。
賃金抑制は深刻なデフレによる経済悪化を招く
全労連は2008年リーマンショックの例を挙げ、企業利益の確保優先による経済復興のデメリットを指摘している。
欧米各国がリーマンショック時に賃金を引き上げ、内需で不況を乗り切った成功例を、今度こそ日本でも行うべきという主張だ。
特にコロナ禍では海外からのインバウンドが期待できない。
だからこそ、日本国内で賃金を引き上げ、国内の消費を増やすのが重要だと考えている。
最低賃金上昇と失業率の関連性はない
「最低賃金を上げると雇控えが起こり失業者が増える」という意見もあるが、全労連はこれを否定している。
2005年の平均最低時給は668円で失業率は4.43に対して、平均最低時給が901円の2019年は失業率が2.20である。
年々最低時給は引き上げられているが、失業率が一気に高まったのはリーマンショック時であり、失業率は最低時給ではなく社会情勢や経済打撃との相関性があるとの意見だ。
非情に冷静な分析だと思う。
最低賃金を増やせば購買意欲が高まり消費が増え雇用も増える
最低賃金の引き上げは、確かに初期の段階では企業の人件費を増やし、利益を圧迫することは全労連も認めている。
しかし、一時的な負担のデメリットはあるものの、賃金上昇による消費拡大、更には国内生産の誘発が起り、結果的には利益が高まり大きな経済効果を生むと主張している。
バブルの経験者なら、納得できる主張だろう。
過去、「物価が上がるから、お金がなくてもローンを組んで購入した方が結果的にお得」という時代があったのだ。
最低賃金は憲法25条・27条を根拠に設定すべき
長くなるから丸っと引用しよう。
「払えるかどうか」でなく、「労働者の生計費」考慮を
賃金は本来、労働者と使用者の交渉の合意による労働契約で決まるとされている。これは、近代市民法の大原則である「契約自由の原則」に基づくものである。しかし同時に、憲法第25条は、「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する」「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない」と定めている。つまり最低賃金制度は、憲法25条の生存権の保障を根拠として、契約自由の原則に修正を加えているのである。
さらに憲法第27条2項では「賃金、就業時間、休息その他の労働条件移管する基準は、法律でこれを定める」として、使用者に対して弱い立場にある労働者を保護することを国に命じている。労働者の多くが賃金に依存して生活していることからも、賃金には生存権を保障する水準が保障されるべきであり、「払えるかどうか」で決めるのは本旨ではない。賃金支払いが困難であることの原因は、労働の対価を保障できる水準に届かない価格設定と流通機構、搾取の自由などにある。生活できる賃金が反映できる価格設定が必要なのである。引用:https://www.zenroren.gr.jp/jp/opinion/2021/opinion210531_01.html
出典:全労連
国民は健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有するが、現在の最低時給では1日8時間週5日働いても実現は困難でおかしなことになってると、という主張である。
また、企業や事業主は弱い立場の労働者を保護すべきと憲法は定めている。
しかし、現状は「契約自由の原則」を盾に、最初からご無体な低時給を提示し「別に働かないのはあなたの自由。変わりはいくらでもいるから」と、企業の横暴がまかり通っている状態だ。
多くの雇い主がこぞって最低時給で人を雇おうとするのだから、労働者は選びたくても選べない。
全く対等でも自由でもないのだ。
これを是正するためには、「もう時給1500円にするしかないでしょ」というのである。
本当にその通り。
やればできるのだ。
携帯電話の料金だって、総理大臣が「下げろ」と言ったら、嘘みたいに下がったじゃないか。
1つの会社で考えるから「最低時給1500円とか無理」となる。
国全体で問題に取り組むべきだ。
全労連もそう言っている。
真面目に働いているのに生活困難になる低賃金は甘受できない
これも、原文がとてもわかりやすいので引用しよう。
経常利益率は資本金が多い企業の方が高い。つまり、資本力がある企業が、しっかりと利益を確保しつつ、販売価格や下請け単価などを統制しているために、下請や資本力の弱い企業の経常利益率が低くなっている。
引用:https://www.zenroren.gr.jp/jp/opinion/2021/opinion210531_01.html
出典:全労連
やはりピラミッドのトップが儲かり過ぎなのである。
「大企業だって赤字を出している」と主張するが、そこに務める人達の給料を時給換算にしてみてほしい。
企業としては赤字でも、正社員たちは守られている。
しかし、その下で働かなくてはならない中小零細企業は悲惨だ。
最低時給アップは中小企業を守る総合的な支援がセット
全労連は中小企業を守る支援の必要性も訴えている。
現状の日本は、大企業による価格支配が行われている。
大企業から仕事を受けて生計を立てている中小企業は、酷い価格競争を迫られ、雇っているパートやアルバイトに充分な時給を払えない状況だ。
資本金が少ない企業ほど、労働分配率は高い。
下に行けば行くほど、辛い状況を踏ん張っている。
一方、資本力のある大企業は利益を高め、悠々自適である。
この構造を理解できない人たちが、「最低賃金上げたら多くの企業が倒産したり失業者が増えたりする」と言うのだ。
メディアも「全労連が最低時給1500円にしろってよ」と、わかいりやすいワードだけ伝えるから、仲間のはずの労働者からも「そんなの無理」「何言ってるの」と、対立の図式を生むのだ。
大事だからもう一度繰り返そう。
全労連の最低時給アップの主張は、中小企業支援とセットである。
アベノミクスがもたらした大企業一人勝ちの歪んだ資本主義を、今こそ正す時ではないだろうか。
最低時給アップに賛成する私をパートだと思う人たち
私は某掲示板で「最低時給1500円最高!大賛成!」と意見を述べた。
その意見の反対者には、私を最低時給でピーピー言っているしがないパートで、全くの世間知らずだと思っている人がいるようだ。
「自分で起業して現実を知ろ」と言われたが、私は既に個人事業主である。
しかも、実家は自営業で、人を雇う時は時給換算で時給1500円以上を払えている。
大変な時期もあったが乗り越えてきたから、末端の苦労は知っているつもりだ。
「自分は特別」と思っている特権階級意識の強い人たちに言いたい。
職業差別していることに気付いてほしい。
苦労をしたからこそ、次の世代にはきちんと働けば普通の暮らしが当たり前のようにできる社会の構築に努力してほしい。
「価値のない人間は低い対価しかもらえなくて当然」という発想は、「子供たちの一部は価値のない大人になってくれないと困る」と言っているのと同然だ。
働いているのに普通の生活ができないのを当たり前とする搾取社会はいい加減終わりにしよう。
子供たちに明るい未来を!