若者に恋愛支援は必要?内閣府「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」の参考資料「恋愛の役割はなにか」を読み解く

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2022年4月に内閣府が発表した「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」が面白い。
特に、参考資料として紹介されている「豊かで幸せな人生100年時代に向けた,恋愛の役割はなにか:恋愛格差社会における支援の未来形」では、あっちこっちからツッコミが入るほどだ。
何しろ、参考資料には「壁ドン」「告白」「プロポーズの練習」「恋愛ゼミ」などを教育に組み込んではどうかいう提案頁まである。
ネットニュースがざわつくのは必然だろう。

恋愛ライターでちょっぴり集計マニアの私は、この資料に大きな興味を持ち、早速公式HPへ飛んだ。
ネットニュースで面白おかしく取り上げられた「壁ドンの練習」は、大量の資料の中のほんの一文でしかない。
壁ドンの練習は論外だが、なかなか面白いデータや考察、提案がなされていた。
この資料が言いたいのは、「壁ドンの練習でもした方がいいのでは…」と思わせてしまう恋愛の二極化への懸念なのである。

そこで今回は、内閣府が膨大なデータから作成した資料、「人生100年時代の結婚と家族に関する研究会」の中で、「恋愛の役割はなにか」に特化して、詳しく解説していこう。
ネットでツッコまれまくりの資料は、大真面目な未来への提案なのだ。
昭和初期のお見合い文化のように、現代の若者には恋愛支援が必要なのだろうか。

※この記事は、以下を参照としております。
内閣府・男女共同参画局「豊かで幸せな人生100年時代に向けた,恋愛の役割はなにか:恋愛格差社会における支援の未来形」

「豊かで幸せな人生100年時代に向けた,恋愛の役割はなにか」を勝手に要約

この資料では、さまざまなデータが示されている。
その中でも、特筆すべきことを以下にまとめて要約した。

  • 貧しいほど幸せではない(貧困層の幸福率男性28.9%、女性36.8%に対し、中央値以上総の幸福率男性52.8%、女性64.2%)
  • 男女共現在既婚中の層が最も幸福率が高い(男性54.6%、女性618%)
  • 男女共婚姻歴なしの層が最も幸福度が低い(男性28.1%、女性33.6%)
  • 恋人いない歴=年齢層は幸福率が優位に低い(交際人数1人以上の幸福率が50%前後に対し、恋人いない歴=年齢の幸福率は男性25.5%、女性36.3%)
  • 恋人いない歴=年齢層は有意に貧困率が高い(恋人1人以上の貧困率が10%前後に対し、恋人いない歴=年齢の貧困率は男性27.3%、女性22.9%)
  • 学歴が高いほど恋人の総数は減る(大学院卒男性2.34人、女性2.54人に対し、中卒男性3.66人、女性3.41人)

資料は、既婚者の幸福率が優位に高く、貧困率が少ないことを示している。
今の日本は恋愛結婚が主流であり、恋愛→結婚→出産と家族を成すのに結婚が欠かせない点も考慮した上で、作成者は「結婚は人生を幸福にする手段」と主張。
離婚率が高まり、「結婚は人生の墓場」なんて言葉もあるが、なんだかんだ言いつつ、既婚者は独身者より幸せだと結論付けている。

しかし、幸せな結婚の前にはばかるのが恋愛だ。
恋愛弱者は結婚のステージに立てない。
これが、「豊かで幸せな人生100年時代に向けた,恋愛の役割はなにか:恋愛格差社会における支援の未来形」の言いたいことである。
資料には、以下のように記されていた。

□恋愛の役割は「幸せのエンジン」
●恋愛経験がライフチャンスを拡げる
□しかし、恋愛チャンスに格差がある
●とくに男性(二極化か)
●かならずしも高地位が有利ではない(教育)

そこで、恋愛支援
□恋愛格差が(人生100年の間?)継続するかも
□そうなら、ハンデを是正し、「恋愛弱者」にもチャンスを平等化するために「恋愛支援」が必要かも
●婚活は恋活

たとえば
□結婚支援事業に恋愛支援を組み込む
●セミナー開催(見た目改善・自信・理論など)、アドバイザー養成、テキスト配布、GoToデート
□教育に組み込む
●壁ドン・告白、プロポーズの練習、恋愛ゼミ

引用:https://www.gender.go.jp/kaigi/kento/Marriage-Family/11th/pdf/3.pdf

ネットでツッコまれまくりの「壁ドン」が出てくる流れがここ。
恋愛ライターの私から見ると、数値的分析から導き出される結論が飛躍し過ぎてビックリだ。
なんか…違くない…?

若者には本当に恋愛支援が必要なのか

確かに、恋愛格差は確実に起こっている。
恋愛に積極的で活発に活動する層がいる一方で、恋愛に臆病で行動できず、かと言って異性から言い寄られるほどモテるわけでもなく、恋人いない歴=年齢を更新し続ける層もいる。
生涯未婚率は年々上昇する一方だ。

しかし、最近の若者が突然恋愛に消極的な層が増えたのかと言うと、そうとは限らないように思う。
以下のグラフを見て欲しい。

このグラフは、お見合い結婚、恋愛結婚の割合の推移と、男女別の生涯未婚率を示したものだ。
昭和初期はお見合い結婚が主流だったが、1970年には恋愛結婚が逆転し、年々お見合い結婚の割合は減少している。
恋愛結婚率上昇に応じて、わかりやすく男性と女性の生涯未婚率も上昇。

このグラフが表すのは、やはり恋愛の二極化である。
元々恋愛スキルが高い層は、自力で恋愛し結婚しているのだ。
一方、恋愛結婚が主流になると、結婚に決して不向きではないのに、積極的に恋愛ができない層は取り残されていく。
昭和の時代のおせっかいな上司も近所の人もおらず、誰の手助けもないまま、障害未婚者としてカウントされてしまうのだ。

資料作成者が言う「恋愛支援の必要性」が、過去のお見合い制度だとするならば、確かに、今の若者の一部の層には必要と言えるだろう。
しかし、それは決して壁ドンの練習ではない。

そもそも恋愛は本当に「幸せのエンジン」なのか

この資料では、恋愛や結婚している層の幸福度が高いことから、「恋愛の役割は幸せのエンジン」と結論つけている。
しかし、価値観が多様化している現在、本当に恋愛は幸せのエンジンになるのかを考える必要があるだろう。

もちろん、好きな人がいて、相思相愛ならば、無条件に幸福だ。
だからと言って、「幸せな恋愛をするための努力」が、幸せにつながるとは限らない。
「婚活疲れ」という言葉があるように、恋愛や結婚は縁の力が大きく、努力がむくわれないことも多いからだ。
「幸せになるために恋愛をするのだ。さあ、がんばれ!支援はするから君も勉強して努力をするのだ」という背景が、若者に幸福感を与えるとは思えない。
具体的なテクニックを教えても、気持ちが伴わなければ幸福な恋愛は手に入らないのだ。

恋愛は楽しい。
しかし、今は恋愛をしなくても、いくらでも人生を豊かにできる時代と言える。
日本にありがちな人を苦しめる固定概念、たとえば「1人でラーメン屋に入る女は不幸」「野郎だけでディズニーランドは恥」みたいなイメージは、随分となくなってきたように思う。
法に触れていなければ、自分の好きなことを好きなようにやれば良い。
ネットの発展のお陰で、超ニッチな趣味でも、仲間が見つけやすくなった。
LGBTQIAなど、ジェンダーの価値観も根付いてきた中、「何が何でも恋愛」という意欲が損なわれるのは必然かもしれない。

もちろん、「恋愛したい!結婚したい!だけどやり方がわからない」「1人では勇気が出ない。誰かに背中を押してほしい」という若者には、恋愛支援は非常に有意義だと思う。
必要な人に必要な支援が届くのが重要だ。

日本は何かと手厚い国だと思う。
私には発達障害の息子がいて、国からの支援を何度も受けているので、とてもありがたく感じている。
しかし、日本の支援は常に受け身だ。
困った人が「困ってるんです助けてください!どんな支援があるか教えてください!」と正しい行動をして、初めて支援に繋がれる。
支援は情報戦で、知らないのは損する一方だ。

恋愛に限らず、日本の支援はもっと困った人に積極的に届ける制度が必要だ。
義務教育なら、確かに満遍なく恋愛知識が届くだろうが、それは壁ドンや告白の方法ではない。
人を愛する喜び、恋愛の楽しさ、何より、失敗をタブーとしない大らかな社会を作る方法を教えてほしい。
若者の恋愛離れは、不確定要素が多く失敗を恐れる気持ちが原因の1つだと考えているからだ。
もちろん性教育や、愛する対象が異性とは限らないこと、そして恋愛を必要としないことを含め、多用な価値観を認め合う大切さも重要だ。

そして、子供たちが「自分も将来こんな家族を作りたい」と思えるような、幸せ溢れる家庭環境が不可欠。
それを実現するためには、国がもっと子育て世帯への支援を手厚くする必要があるだろう。

若者の恋愛離れ、結婚離れは当事者たちだけの問題ではない。
各世代が複雑に絡み合った、日本全体の問題なのだから。

目指すべきは、恋愛・結婚・出産する人も「しない人」も幸せな社会

この資料は最後にこのようにまとめられている。

課題
□結婚、家族の多様化
●事実婚、シングルペアレント、子なし夫婦、ステップファミリー
●アセクシュアル、アロマンティック
□個人か
●中年未婚者、障害未婚者
●離別後、死別後の恋愛
□貧困の影響
□目指すべきは、恋愛・結婚・出産する人も「しない人」も幸せな社会

引用:https://www.gender.go.jp/kaigi/kento/Marriage-Family/11th/pdf/3.pdf

目指すべきは誰もが幸せな社会。
心から同意する

ゲスな情報番組によって、「内閣府は若者に壁ドンの練習をさせようとするトンチンカン」というマイナスイメージばかりがピックアップされてしまった。
しかし、言いたいのは「恋愛によって幸福度が上がるなら、恋愛しやすい環境を整え、支援を充実させるのはどうか」という提案なのである。
たまたま「壁ドン」が注目されてしまったが、重要なのはそこではない。
必要な人に、決して押し付けない、さり気なく背中を押すような支援の必要性を訴えている。

「必要な人にさり気なく背中を押すような支援」
自分で書いていて、非常に難しいと感じる。
今の若者はデリケートで、しかも多くの情報を持っているから、昔のように「結婚が当たり前!」と、半ば強引にお見合いに引っ張り出すようなことはできない。

支援は必要だが、それだけでは無理だろう。
やはり、恋愛は自発性が重要だ。
恋愛への自発性が希薄な若者は、果たしてこれからどうなってしまうのだろうか。

若者の恋愛支援を考えるには、若者の心理の理解が必要だろう。
以下の記事も、内閣府の資料を基に作成しているので、是非読んで欲しい。
恋愛したくない若者に潜む自己中な心理と社会への閉塞感…本当の原因とは?

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